今回は、渋谷スタートアップビザを取得し、医療に関するシステムを効率化するデジタルヘルスケアプラットフォーム「Katarina」のマーケティングマネージャーであるJulien Schmitt氏にインタビューを行いました。渋谷で起業するまでの道のりや、これからのビジョンについてお話を伺いました。
(写真:Katarina)
− 起業の経緯についてお聞かせください。
起業への道のりは13歳のときに始まり、ファンタジーの世界やアニメのファンに特化したオンラインゲームプラットフォームのUI/UXを担当しました。ゲームの掲示板を作ったり、ルールを考えたり、デザインとコーディングの両方をこなしたり、コミュニティ管理も担当し、14歳になる頃には、メンバーが約1,000人いるゲームコミュニティを統括していました。
その後すぐに、ゲーム開発者だった幼なじみと一緒にゲーム業界について研究し理解を深め、ストーリーテリングの仕組みやゲームプレイのトリックに魅了されていました。それから、脚本を書き、ゲームの操作手順の文書を作り、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)をデザインし、最初のインディーズゲームを共同開発しました。同じ頃、Windows 8.1とiOS 7によって広まったフラットデザインの台頭と、Windows Live Messengerの終焉によって、さらにインターフェース・デザインに方向転換していきました。
そして、ゲーム開発者の友人と共同で、MSN MessenagerやWindows Live Messengerに代わるものを作ろうと思い立ちました。今でも、あのソフトを復活させたいと思っています(笑)私たちが作ったそのソフトは、実質的にはDiscordやSlackの前身で、マルチメディア、ビデオゲーム、RSSニュースフィードやサードパーティのアプリマーケットプレイスが統合したものでした。簡単に言うと、2013年にTwitch、Steam、SpotifyをDiscordに統合し、AppStoreとオープンテーマのチャンネルが合わさったようなものです!
その後、インターフェイスデザインのスキルを向上させ、自分の始めたことを最後までやり遂げるという、より起業家的なアプローチを取りたいと思うようになりました。フリーランスのデザインプロジェクトを通して生計を立てながら、22歳頃に日本に移り住んだとき、私は個人的にも仕事の面でも大きく成長することができました。その頃、「Katarina」の現CEOに声をかけられ、共同設立者として医療用ソフトウェアの初期インターフェイスをデザインすることになりました。
(写真:Katarina)
− なぜ日本を選んだのですか?
日本を選んだ背景には多くの理由があり、それは思春期の時の経験が大きかったと思います。多くのフランス人が1990年代のテレビ番組に影響されたように、私もアニメに夢中でした。ビデオゲームに熱中し、任天堂の作品の熱狂的なファンだった私は、日本に対して理想的なイメージを持っていました。
高校の終わりに移住する国の決め手として、その国の経済的な面に重点を置くようになりました。しかし日本は技術先進国であり、何もかもがすでに完成されているため、できることはもう何もないと思っていました。日本への思い入れはあったものの、経済的な成長面を考え、重い気持ちで、私は日本に行くという考えを捨て、アジアの他の場所を探すことにしました。
ちょうど韓流ブームの真っ只中で、韓国のGDPは大きく伸びていたため、私のプロジェクトにとってよい選択になるかもしれないと思いました。また、当時、韓国のMMORPG(多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)、特に株式会社グラビティのMMORPGをプレイしており、すでにこのゲームのGUIの再設計を担当していました。そんなわけで、完全に韓国にシフトすることにしました。そして、韓国語とアジア太平洋地域の国際ビジネスを学ぶために大学に入学しました。
大学3年生になる前に韓国への交換留学を計画し、クリスマス・イブに2週間、日本を旅行しました。2015年に2週間日本に滞在した時は、日本のテクノロジーの現状をある程度把握することができ、自分がいかに間違っていたかを痛感しました。主観的かもしれないのですが、私の個人的な感覚では、日本は必ずしも旅行目的だけでなく、むしろ住むべき場所だと思いました。フランスに帰国して1年も経たないうちに、私は日本に戻り、日本で住むことにしました。
− スタートアップの立ち上げから、どのような進化を遂げたのでしょうか?
私たちのスタートアップは、Shibuya Startup Supportのプログラムに参加する前に、スイス、モントルーで生まれました。医師のGilles Tardieu氏とGregory Krieger氏、弊社CEOとの会話から始まったこのスタートアップは、医師がデジタル・プラットフォームに移行する際に直面する課題解決を目指しています。
既存の解決策は1990年代につくられた実用的でないインターフェイスを特徴としており、特に若い世代には不向きです。これらのシステムが30年以上使われていることを考えると、これらのツールで仕事を始めた人の多くは引退に差し掛かっている人が多いです。
このような時代遅れのプラットフォームで若い医療助手やZ世代の医師を訓練しようとしても、失笑されてしまうか、医師が最新のツールを導入している別の医療機関に行ってしまうということになるかもしれません。
私たちはスタートアップで多くの経験を積み、ヨーロッパの医療界と継続して関係を育んできました。私たちが開発した医師向けのソフトウェアは、医学研究所向けのソフトウェアなど、新たなソリューションを生み出しました。コロナ期間中にヨーロッパに戻った私は、私たちの事業のグローバル化に向けた準備として、アジア太平洋地域、特に日本とのつながりを確立するために、Shibuya Startup Visaへの申し込みを決めました。
日本では、アップルやマイクロソフトのような企業でない限り、ただ単にお金を持ってやってきて、採用や信頼を生み出すのを期待するのは実際難しいです。人脈作りや関係構築はヨーロッパとは異なるプロセスであり、かなりの時間を要し、あらゆる面でより本質的に人としての側面が重要になります。Shibuya Startup Visaは、まさに私たちの活動の基盤として必要な他のファウンダーとのつながりなど、Shibuya Startup Supportが持つネットワークを可能な限り私たちに共有し、潜在顧客との信頼関係の構築をサポートしてくれました。そして現在 私たちは、グローバル展開の準備をするための基盤を手に入れることができました。
− 渋谷スタートアップビザを申請するために、どのようなステップを踏んだのでしょうか?
私たちが渋谷スタートアップビザの申請を決めたのは、コロナウィルスのパンデミック、特に2年目の大変な時期でした。この時期は、国境が閉鎖され、日本での規制が本当に厳しかったため、大きな困難が伴いました。
当時、私たちはスポンサー企業からの申請支援のための推薦状を確保しなければなりませんでした。申請プロセスでは、今後の1年間のアクションプラン(もちろん6ヵ月後に更新される)を作成し、プロジェクトのビジョンを示す必要がありました。さらに、日本法人の事業計画書も必要でした。多くのスタートアップ創業者にとって、特に新しい世代の創業者にとっては、このような事務的な側面に気後れするかもしれないけれど、より大きな利益のために必要なステップだと考えてほしいです。日本は事務処理と契約が中心であり、こうした環境に身を置くことになります。
さらに、会社の目的、プロジェクト、財務管理を明確にするための貴重なトレーニングもありました。ビジネスを効果的に維持するためのチュートリアルと捉えてください。スタートアップとして事業を進め、投資家にアイデアを売り込むようになるとこのような文書の作成が事前に求められるようになるため、事前に準備しておくことは有益でした。
− 今後の展望を教えてください。
日本で5年以上過ごし、外国人が医療従事者を探す際に直面する課題が見えてきました。言葉の壁、日本語だけのアプリケーション、そして必ずしも機能するとは限らないクレジットカード決済が、ローンチした新しいプラットフォームを作る動機となりました。
その狙いは、旅行者や駐在員がオンラインで支払いができ、彼らの言葉で利用でき、快く対応してくれる医師や医療従事者のいる医療機関にアクセスできるよう支援することです。英語が話せる医師を見つけることや、長期的に良い関係を築ける歯科医を家の近くで見つけることがどれほど難しいか。
弊社の新しいプラットフォームは医療マーケットプレイスで、医療従事者はオンラインストアのように医療サービスを紹介し、より簡単に新しい患者と繋がることができます。日本だけでなく、アジア全体、そしてある程度世界的に、現在解決できない困難に直面している新しい患者を新たに呼び込む新しい機能です。
− SSSに応募したい、あるいは日本市場に興味がある創業者・スタートアップの方々へメッセージをお願いします。
日本市場に注目しているにせよ、SSSを通じてビザ申請を検討しているにせよ、伝えたいことは一緒です。日本は少しずつスタートアップの可能性に気づき、リソースを投資し、この分野でよりダイナミックになろうと奮闘しています。スタートアップに特化したイベントや投資の増加により、日本はスタートアップに優しい環境を整えていっています。
フランスやアメリカのようなスタートアップ促進政策を採用している他の先進国ではスタートアップが溢れ、声を上げることが難しくなっているのとは対照的に、日本は独自の機会を提供しています。
日本でスタートアップ・シーンがまだ生まれたばかりであることを考えれば、声が届きやすく、真に自分達のプロダクトに興味を持ってくれる人達と有意義な議論を交わし、持続的な関係を築くことが可能です。私は、この機会を逃すべきではないと思っています。
このつながりを活用するためには、今後2、3年が非常に重要であり、それは間違いなく今後、グローバルな影響力を持つと思います。日本のブランドイメージ、市場参入への挑戦、グローバル展開のために必要な現地との繋がりなどから得られるレバレッジ効果をうまく活用できれば、日本市場参入はあなたにとって大きな強みとなるはずです。まさにWin-Winの関係だと思います。
ここまで、インタビューの内容をご紹介しました。渋谷区のスタートアップエコシステムやスタートアップビザに興味のある方、ぜひご連絡ください。今後開催するイベントやセミナーはソーシャルメディアにて公開いたしますので、ぜひフォローをお願いいたします。
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